エンタングルメントosugi3yのブログ

14年勤めた企業をやめました。映画「時の行路」尾道市実行委員

「Winny」は涙なしには見れない作品だった。

 全国的には一極集中する日本だが

 

 全国的には3月10日から公開されていたようなんだけど、地方ではシネコンとか視聴するのに便利なところは利用できなくて、4月7日の公開*1だった。僕自身はWinnyが騒がれていた頃はパソコンも持っていなくて、なんか話題だなと感じてる程度だった。大学には行ったので卒論はPCで書いたのでそれくらいはわかる、OSは、WindowsMacで違うと言うことくらいは分かっていた。でもそれでも民間企業時代の上司はPCに疎くてWinnyの話をわかったように聞いていて、僕が「何の話か分かってます?」と質問すると「分かってる」と言って、僕が「Windowsってわかりますか?」というと「PCのことじゃろ?」と分かっていて、僕が「じゃあWinnyは?」と聞くと、「分かっている」と言ってああ、それくらいは一般の人でもわかるんだなぁと感じて「じゃあWinnyって何ですか?」と聞くと「あれじゃろ?任天堂が出しとるやつ」僕「それ、Winnyじゃないです!それはWiiです!!」と突っ込んだのを覚えていて司法の場においても裁判官なんかもそれくらいの認識の時代の話であったというのを前提として知っておいていただきたい。

 その後、HPのパソコンを買いファイル共有ソフト*2には大変お世話になった。ある程度の年齢以上の年齢の人はファイル共有ソフトにはある程度感謝している部分があるんじゃないだろうか。ピンとこないなら任天堂のDS*3のマジコンを使ったことがあるっていうならそれは影響の多い少ないはあるにしろ恩恵を受けているってことだ。

 僕自身は人生にゲームして過ごす時間的余裕がなくなったのでファイル共有ソフトはもうあまり興味がなくなってしまったけれど。

ストーリーの構造

 この映画のストーリーの柱は大きな二つの物語で進行していく、一つは金子勇氏のWinny開発で逮捕されて警察と裁判して司法で裁かれていく話と、もう一つは愛媛県警の巡査長が裏金工作を暴露する話だ。どうやらこれも実話ベースの話のようだ。最近では広島県警でも同じような事案があったようだ。

news.yahoo.co.jp

 科学技術を全面的に肯定する男の物語

 金子勇氏は幼い頃から、PCに触れて科学技術に詳しくかつ科学技術に絶対的に善の立場を取る人物だ。僕個人としては廃棄すべきテクノロジーはあると考えていて、先の大戦で利用された核分裂の技術なんかはロストするべきテクノロジーだと考えている。

 このWinny開発で罪の争点になってくるのが開発意図だ。金子勇氏は常に前向きで楽観的で少し浮世離れした人物だし、警察組織や司法の場に対しても善人たちによって運営されていると信じているような人物だ。インターネットやそのあたりの知識は人一倍詳しい人物で裁判を受けるにあたりP2P技術の有効活用なんかを常に考えている。果たして金子氏に開発意図はあったのだろうか。

 P2Pとはお互いのコンピュータ対等な関係であるとして既存のサーバやクラウドに頼らないデータ送受信システムで、最近では仮想通貨なんかに使われている技術だ。

 この金子勇氏はネット上では47というユーザーネームで活動している。そして裁判で争っていくことになるんだけど、当時はインターネット普及期(僕自身まだPCもスマホも持っていなくてインターネットでさえネットカフェを利用していた時代の話だ。)

 僕自身は最近ではPC技術に興味を持ち始めてプログラミング言語なんかを学んでいる(Common Lisp)が作品中金子氏がプログラミングをするところなんかの描写があってなんか僕が使っているエディタより便利そうなものを使ってるなと感じた。

 そして相手は大阪府警、僕自身は少し縁がありリーマンショックの時に3回ほど大阪府警の試験を受験*4している、最終面接くらいまでは進めたのだけれど、最終的には年齢的な受験資格喪失であきらめた、という経緯がある。その大阪府警と裁判で争っていくのだけれど、結構法律に無知で、人間や科学技術に対して善の意識を持っている金子氏は少しずつ有罪へ誘導する大阪府警の誘導にのっていってしまう。

 それと時を同じくしてインターネットに強い壇俊光弁護士が弁護を担当することになる。印象的だったのはこの分野で技術者を逮捕できるのかという問いに壇弁護士は持っているステーキナイフを掲げてこういう「例えばこのナイフであなたを殺した、悪いのは誰ですか?」これは自明でナイフを持っている壇弁護士だろう続けて、「じゃあこのナイフを作った人を罪に問えますか?って話ですよ」と言う。これはこの事件の争点を非常に明確に表していて、一緒にいる弁護士もそれは無理だと納得する。この話を聞いてジブリの「風立ちぬ」で描かれたテーマと似ているなって思った。

 技術に罪はないと自明の理を掲げていた壇弁護士に47氏こと金子氏逮捕の知らせが入る、ネットでちょっとした有名人として奉られていた47氏に2chユーザーから有志の寄付が集まる。名義は怪しまれないように壇弁護士の名義がいいのではないかという申し出もありそうして裁判費用も集まる。

 開発意図が著作権幇助の慢延*5←(この辺はちょっと曖昧だけど)を意図してWinnyを制作したとの調書を書かされた金子氏に少し感情的に迫る壇弁護士。あと2chで寄付が集まったことを金子氏に伝え通帳をみせる壇弁護士。寄付金額で数字の当て字このあたりの文化はポケベル由来かただ単に当て字だったのかわからなかったけどネットミームなんだろうなとも思ったし、その数字に意味を持たせて寄付してくれているシーンで人間の善性に涙が流れてしまった。この行為は硬貨入金で手数料を取るようになってしまった郵貯なんかじゃ今じゃできない支援の仕方だよなと感じた。

 また弁護士側も弁護団を結成して技術者を萎縮させないために戦うことを決意する。途中からずっと涙が流れていたし、壇弁護士と金子氏が少し技術的なことで裁判が終わったら資金的な援助をすると申し出るところなど、金子氏が亡くならなければいまどうなっていたかを想像させる描写もありすごく良かった。

 もう一つのストーリーの柱が愛媛県警の裏金工作の話だ。仙波敏郎巡査部長は自分は架空の領収書を書くのは頑なに拒み続けでも県警の上司から領収書を書けと言われてみんながやってるからと所内でかく部下の姿を注意もするがなかなか慣習でやめられないと言っている部下を見る描写が描かれる。僕自身は役者に明るくないので俳優さんが誰とかはあまりわからなかったのだけれどこの仙波巡査部長だけは、「北の国から」で子供役をやっていた記憶があったので覚えていた、それと同時に子供役をしていたのに55歳の巡査部長役をしているとに衝撃を受けてしまった。自分ベースだと時間が就職してから流れていないように感じているので子役だった人が白髪混じりになっていたことで時間は流れているんだな、と言うことを実感してしまった。

 一般的には警察組織とは善を担う組織だと考えられているが、不正なんかも実際には行われているんだなと実感し、国民としては基本的には反権力のスタンスが常に正しいとは考えてはいる。しかし不正(悪)を見てみぬふりをすることが慣習になってしまっていると言うこともある、それは外部の目が入りにくい構造の問題もあるし、ちょっと不正のリークがあっても新聞記者も警察発表を垂れ流すだけという報道姿勢にもあると思う。仙波巡査部長はそんな不正が万延する中1人善の心を持ち続けた人なんだろうなと感じた。そして裏金工作を告発するのである。その告発によって、脅迫まがいの電話がかかってきたり、部屋に石を投げ込まれたりなんかする。告発者の保護は必要だよなと感じた、あと、結局警察発表で裏金工作はなかったとなって、新聞もそれを垂れ流すだけとなってしまう。裏採りをして報道しようという気概のある記者が育たなくなってしまったのか。しかし夜、記者がPCを眺めて、Winnyのファイルをふと開いた新聞記者、そこに裏金(これが何だったか曖昧だけど、多分協力者への謝礼金だったかと思う)の領収書のPDFが表示される。これは証拠になると新聞記事へ証拠付きで記事にする。

とここでWinnyと新聞報道のストーリーの軸が繋がる。そして、金子さんは裁判の場へ、技術者の技術に対してのスタンスを言語化は難しいと判断した壇弁護士、金子氏のWinny開発意図を理解してもらうためには、彼が作ってきたものや、技術の説明をしてもらうことが検察が主張する開発意図と食い違うことの証明になるのではないかと考え金子さんのPCを法定へ持ち込む。*6

 著作権幇助の政策意図なんかプログラマにないとは思うけど、プログラミングをしたいという知的好奇心も一般的には理解されないんだろうけど、この裁判では認められなくて、ちょっとだけ気持ちがわかる僕はまた悔しくて泣いてしまっていた。技術者の開発意図、それは劇中の表現を借りるなら「登山家がなぜ山に登るのか?」の理由と同じになってしまう。最後に迫るにつれ、金子さんが裁判をすると決意した理由が見えてくる、それは金子さん個人で決定しただけではなく多分弁護士の思いもあったんだろうけど、自分の後に育つ技術者に開発を萎縮させないように戦うことを決めた、と言っている。裁判までは守秘義務で肉親とかにも連絡を取れない状態が続きそれが辛そうだと感じた。

 あとは壇弁護士と金子氏の関係性もいいなと思った。弁護士とクライアントだけど、金子氏が亡くならなければいい友人になっていたんじゃないのかなぁと思ったりもした。

 金子氏は技術に明るく科学全般を肯定的に受け止めていて、米軍の戦闘機にはFが付くものが多いなんかの発言もする、そして「次期戦闘機F-35があんな形になるなんて誰も予想できなかったですよ!」と無邪気に笑う。そして、それにはそうだよな、と同意せざるを得なかった。誰にも現在から未来を見通すことなんてできはしないんだ。そしてこうも言っていた「宇宙って人間が知ることができないくらい広い、一生かかっても知りきれないかもしれない、でもコンピュータの中に宇宙を再現できたらそれは制御可能じゃないですか」これは昨今言われているコンピュータ万能説とは違う考え方でいい気付きをもらえた。コンピュータこそが有限で現実は無限なんだと言うのがこの映画見て感じた感想だった。でもよく分からないけど最後もずっと僕は泣いていて、1人で来て正解だったな、と思った。と同時にジェンダー平等と言われているし、そういうふうに子供に言ったりするけどまだ人前で泣くのは男らしくないとか思っている自分がいるんだなということにも気付かされた。裁判を起こすというのはやはり起こした側に意図がありそれをこの映画ではWinnyの認知で内部情報の漏洩を恐れた警察が起こしたのではないか、ということが示唆されている。

 この裁判が進行している最中に技術者が萎縮して遅れをとってしまったのか海外でYoutubeが発表される報道を金子氏がチラシで見る描写があるんだけど、技術的にP2PYoutubeは違うよねって思ったYoutubeはサーバ持ってるだろうし有料プランもあるし収益化に成功しているし、この辺りはP2Pでの収益化は難しいんだろうなって感じた。

 なんか自分の人生と重ねてしまって映画単体で評価すことはできないけれど、自分が見るには本当にちょうどいいタイミングで公開してくれていた作品だった。配給がKDDIだったのも印象的でいい仕事するよね、と感じた。

 散文的になってしまったけど、ある年齢層以上には刺さる作品だと思う興味が沸いたら、映画でも、レンタルするなり、なんかどっかのサブスクで見るなりしてくれよな!なんか邦画が元気がないらしいので応援の意味でも是非!僕はKDDIユーザーではないけど(笑)*7

 

*1:こういうところは地方に住むデメリットだよね。

*2:パーフェクトダークだったかPCのグラフィックの進化に度肝を抜かされたものだ。フォールアウト3のMODなんかを入れて遊んでいたんだけどHPのPCは5年くらいで起動不能になってしまった。

*3:3DSではマジコンを使うと3DSが文鎮化してしまうという鬼畜プログラムを任天堂が作って対処したのはいい思い出だ。

*4:大阪府警の試験で特徴的だったのは、身体調査があることだった。パンツ一丁になり体に刺青や、ピアスの後や、根性焼きの跡がないかなんかをチェックするんだ。DVの可能性も排除できないけど、その場合、警察官を志望するみんなは言葉で説明してくれよな!

*5:慢延という字は新型コロナウィルス蔓延防止のためと今年はよく書いたなぁ

*6:法定にパソコンを持ち込むことが許されるのどうか裁判を諦めた僕にはわからなかったけど。

*7:なんか最近大阪府警が令状なしで自宅捜査したみたいだけどそういう法定尊守意識みたいなのがいまだに育っていないのに驚かされる。